環境委員会 第8回環境セミナー (リモート開催) のテーマ及び講師紹介

*テーマ 生物多様性とは何か?-進化・適応から考える

環境委員(第67回卒業)

細谷和海

 人類の過剰な開発によって地球環境が著しく損なわれています。現在は、地球上の生命が出現して以来第6回目の大量絶滅期に相当し、しかも過去の大量絶滅に比べて規模が大きく個々の生物の絶滅速度著しく速いと言われています。一方、人類がさまざまに自然に依存し野生生物と共存している以上、生物多様性を正しく理解しそれを保護しなければなりません。

 一般に、生物多様性とは“地球上のすべての生命が遺伝子・種・生態系の順に階層をつくり、それぞれが変異性を保ちながら存在すること”と定義されています。生物多様性には進化的背景があり、それぞれの構成要素は長い年月をかけ相補的な関係を築きあげてきました。このような生態学的自律性は風土性の原則とよばれています。そのため、生物多様性の保全対象は在来種に限られ、外来種は除外されることになります。

 日本列島においても野生生物の生息環境は急速に悪化し、我が国固有の生物多様性は劣化の一途をたどっています。これに対して日本政府は日本の生物多様性の危機要因を4つに大別しています。“第1の危機”は開発による危機で、生物資源の乱獲、森林伐採、埋め立て・浚渫、宅地開発、それに圃場整備など自然環境を過度の人工化させることによって引き起こされます。 反対に“第2の危機”では人の適度の干渉が止まることにより自然と人為のバランスがくずれ、生物多様性に負の効果をもたらします。たとえば里地・里山の荒廃は耕作放棄をきっかけに引き起こされます。近年のシカやイノシシの異常増加は人への農業被害にとどまらず、健全な生態系の秩序を乱しているのはよく知られるところです。“第3の危機”は在来の生態系へ侵入する要素がもたらす危機で、生物としての外来種、化学物質としての農薬と殺虫剤が挙げられます。日本の水辺ではブラックバスなどの外来魚は言うまでもなく、近年ではネオニコチノイド系の殺虫剤によりヤゴなどの水生動物が大きな影響を受けています。“第4の危機” は地球温暖化がもたらす2次的影響です。琵琶湖では冬季水温が高くなったため湖底と表層の水循環が止まり、その結果栄養塩の湧昇は阻害され湖底は無酸素状態となり、生態系は大きく劣化しています。

 生物多様性を保護する方法には、野外の生息地をそのまま守る“生息域内保全”、および絶滅に瀕した生物を特定の施設内に収容しその系統を維持する“生息域外保存”があります。野外で得られる情報と施設内で得られる情報を相互にフィードバックさせると、保護はより効果を発揮します。このことから両者は相補的関係にあるべきで、保護における車の両輪に例えられるでしょう。加えて、実際に絶滅危惧種を野外で保護するためには、一般市民の参画は欠かすことができません。長い年月をかけて創出された生物多様性を人類共通の財産と考えると、それを先祖から受け継いだのが現代人なら、それを次代に伝えるのも私たちの務めであるはずです。


講師プロフィール

細谷 和海(ほそや かずみ)細谷和海氏の写真

1. 経歴

(1)昭和26年 東京都江戸川区小岩町生まれ。現在、奈良市在住

(2)学歴

江戸川区立小岩小学校・小岩第1中を経て都立両国高校(第67回卒業)へ
昭和49年京都大学農学部水産学科卒業
京都大学大学院農学研究科修士課程修了
京都大学大学院博士課程満期退学(農学博士)

(3)専門

魚類学、系統分類・自然保護論

(4)職歴

水産庁養殖研究所育種研究室長 平成2年4月~平成8年3月
水産庁中央水産研究所魚類生態研究室長 平成8年4月~平成12年3月
近畿大学農学部教授 平成12年4月1日~平成30年3月31日             

(5)学会活動

日本魚類学会会長 平成29年9月~令和元年9月 

2. 現職

近畿大学農学部 名誉教授
環境省絶滅の恐れのある汽水・淡水魚選定委員会座長
(淡水魚の分類から外来種、水田生態系の保全まで)

3. 著作・論文

『シーボルトが見た日本の水辺の原風景』東海大学出版部(編著)
『魚類学の百科事典』丸善(監修)
『日本の淡水魚』山と渓谷社(編著)
『ブラックバスを退治する』恒星社厚生閣(共編)
『日本の希少淡水魚の現状と系統保存』緑書房(共編)など

4.受賞

自然環境功労者環境大臣賞表彰 平成28年4月